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日本の炭素税と世界の比較

日本の炭素税は、CO₂排出1トン当たり約2.16米ドル(約289円)と設定されています。これは国際的な水準と比較すると低く、企業にとって排出削減のインセンティブが十分でないと指摘されています。

国際的な炭素価格の状況

  • スウェーデン: 世界で最も高い炭素税を導入しており、CO₂排出1トン当たり約137米ドル(約150ユーロ)とされています。
  • スイスおよびリヒテンシュタイン: CO₂排出1トン当たり約101米ドルの炭素税を課しています。
  • フィンランド: 輸送用燃料に対して、CO₂排出1トン当たり約73米ドルの炭素税を適用しています。
  • EUの排出量取引制度(EU ETS): 2021年時点で、CO₂排出1トン当たりの取引価格は約50米ドルと報告されています。

これらの国々や地域では、日本よりも高い炭素価格を設定しており、企業に対する排出削減のインセンティブを強化しています。

パリ協定の目標達成に必要な炭素価格

炭素価格ハイレベル委員会によれば、パリ協定の目標達成には、2030年までにCO₂排出1トン当たり61~122米ドルの炭素価格が必要とされています。日本の現行の炭素税はこの水準を大きく下回っており、今後の引き上げや追加的なカーボンプライシング施策の導入が検討されています。

例えば、2023年に策定された「GX推進法」では、2026年度からの排出量取引制度の本格導入や、2028年度からの化石燃料への賦課金の導入が計画されています。これらの施策により、炭素価格の引き上げと企業の排出削減努力の促進が期待されています。

日本企業のESG活動における国際的な取り組み

日本企業のESG活動における国際的な取り組み

日本企業のESG活動は、日本国内だけでなく、国際的にも幅広く認められ、実施されています。特に、気候変動や人権問題、持続可能なサプライチェーンに関連する取り組みは、グローバルに展開されています。以下に、日本企業による国際的なESG活動の事例を挙げます。


1. 環境(Environment)に関する事例

国際的な再生可能エネルギープロジェクト

  • 伊藤忠商事:
    • 世界各地で再生可能エネルギー事業を展開(例:アメリカやアジアでの太陽光発電プロジェクト)。
    • パリ協定に基づくCO2排出削減目標を達成するため、国際的なグリーンエネルギー開発を推進。

海外での植林活動

  • トヨタ自動車:
    • 東南アジアや南米での植林活動を通じて、CO2吸収の促進と生物多様性の保護に貢献。
    • 持続可能な森林管理を支援するプロジェクトを展開。

グローバルな排出削減への貢献

  • 日立製作所:
    • 欧州やアジアでの鉄道プロジェクトを通じて、公共交通機関の低炭素化を推進。
    • 環境負荷を低減する技術を輸出し、国際的な脱炭素化に寄与。

2. 社会(Social)に関する事例

グローバルサプライチェーンの人権対応

  • ユニクロ(ファーストリテイリング):
    • アジアを中心としたサプライチェーン全体での労働環境改善プログラムを実施。
    • 工場労働者の権利保護や、サプライヤーとの協力による透明性向上を目指す。

国際的な災害支援

  • ソフトバンク:
    • グローバルな災害対応で通信インフラを支援。
    • アフリカやアジアの被災地での緊急通信支援プロジェクトを展開。

途上国への教育支援

  • 三井物産:
    • アフリカや南米での教育支援プロジェクトを通じて、地域コミュニティの経済的・社会的発展を支援。
    • 学校施設の建設や職業訓練プログラムを提供。

3. ガバナンス(Governance)に関する事例

国際基準に基づく透明性の向上

  • 多くの日本企業が、**TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)UNGC(国連グローバル・コンパクト)**の枠組みに参加。
    • 三菱UFJフィナンシャル・グループ:
      • 国際的なESG投資ガイドラインを採用し、脱炭素投資を拡大。
      • 石炭火力発電プロジェクトへの融資を段階的に廃止。

国際的なステークホルダーとの連携

  • パナソニック:
    • グローバルパートナーシップを通じたガバナンス改善を進める。
    • 国際的な規制に対応した製品責任ポリシーを採用。

4. 国際的なESG評価への対応

多くの日本企業が、以下のような国際的なESG評価基準や枠組みに基づいて活動を行っています:

  • DJSI(Dow Jones Sustainability Index):
    • トヨタ、日立、ソニーなどが上位にランクイン。
  • CDP(Carbon Disclosure Project):
    • CO2排出削減や水リスク管理における取り組みで高い評価を受けている企業が多数。

結論

日本企業のESG活動は、日本国内に限定されず、国際的な課題への対応にも広く展開されています。これらの活動は、グローバル市場での競争力向上や国際的な規制への適応に寄与しています。今後も、国際的なステークホルダーの期待に応える形で、持続可能性を重視した活動が拡大すると期待されます。

サステナビリティ関連の情報開示義務

サステナビリティ関連の情報開示義務について

日本では、サステナビリティ関連の情報開示義務が強化されつつあり、特に気候変動に関連するリスクと機会の開示が企業に求められています。これは、国際的な基準や国内の政策動向を踏まえ、投資家やステークホルダーに対する透明性を高めることを目的としています。


1. 国際基準に基づく情報開示

ISSB基準

  • ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、サステナビリティ関連の情報開示基準を策定するために設立されました。
  • 2023年6月、以下の基準が発表されました:
    1. S1基準: 企業の全般的なサステナビリティリスクと機会の開示。
    2. S2基準: 気候関連のリスクと機会に特化した開示。
  • これらの基準は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨事項と整合性を持ちます。

TCFDに基づく開示

  • 気候関連のリスク・機会を以下の4つの柱に基づいて開示することが求められます:
    1. ガバナンス: 気候関連リスクを管理する体制。
    2. 戦略: 気候リスクと機会が事業に与える影響。
    3. リスク管理: 気候関連リスクの特定・評価・管理方法。
    4. 指標と目標: 温室効果ガス排出量や削減目標などの数値情報。

2. 日本での情報開示義務の動向

金融庁の対応

  • 日本では、金融庁がTCFDに基づく開示を上場企業に義務化する動きを進めています。
  • 2025年度から段階的に開始され、特に以下が対象となる見込みです:
    • プライム市場の上場企業(大企業)。
    • 一定規模以上の非上場企業も対象になる可能性。

企業会計基準の対応

  • サステナビリティ情報の財務諸表への統合が議論されており、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連のリスクが財務パフォーマンスにどのように影響するかを説明する必要があります。

3. 具体的な開示内容

  1. 気候関連情報:
    • 温室効果ガス排出量(Scope 1, 2, 3)。
    • 事業の気候変動適応計画。
    • ネットゼロ目標や再生可能エネルギー利用率。
  2. ESG情報:
    • 社会的インパクト(例: 労働環境、地域社会への貢献)。
    • ガバナンス体制(例: 取締役会の構成、リスク管理プロセス)。
  3. 財務情報への影響:
    • 気候変動が収益やコスト構造に与える影響の説明。
    • 移行リスク(政策・規制対応)や物理リスク(自然災害)の財務的影響。

4. 企業への影響

  1. メリット
    • 投資家やステークホルダーとの信頼関係の強化。
    • サステナビリティに取り組む企業イメージの向上。
    • サステナビリティ関連の資金調達(グリーンボンド等)へのアクセス拡大。
  2. 課題
    • 必要なデータ収集と分析の負担増。
    • 専門知識を持つ人材やシステムの整備。
    • 短期間での対応には高コストが伴う可能性。

5. 今後の展望

  • 日本では、国際基準(ISSB、TCFD)を基にした国内規制が整備され、サステナビリティ情報開示が重要な経営課題となる見込み。
  • 将来的には、気候関連リスクの開示が一部の大企業にとどまらず、サプライチェーン全体や中小企業に広がる可能性があります。

まとめ

サステナビリティ関連の情報開示義務は、企業の透明性を高め、気候変動への適応とリスク管理を強化するための重要なステップです。企業は早期に体制を整え、長期的な競争力を確保するために対応を進める必要があります。

2026年または2027年から大企業に課せられる制度

2026年または2027年から日本の一定以上の大企業に課せられる制度として、以下のようなものが議論・計画されています。それぞれ、脱炭素化や持続可能性の推進を目的としています。


1. 排出量取引制度の本格導入(2026年度~)

  • 内容:
    • GX-ETS(グリーントランスフォーメーション排出量取引制度)の本格導入。
    • 大企業を中心に、CO2排出量の削減目標や上限(キャップ)を設定。
    • 上限を超える排出量については、他社から排出枠を購入する必要があります。
    • 削減目標を超える削減を達成した場合は、余剰排出枠を取引可能。
  • 対象:
    • 一定規模以上の温室効果ガス排出を行う事業者が対象。
    • 主にエネルギー集約型産業(製造業、鉄鋼業、化学業など)を想定。
  • 目的:
    • 排出量削減を市場原理に基づいて促進し、脱炭素化を加速。

2. サステナビリティ関連の情報開示義務(2025年度~段階的開始)

  • 内容:
    • ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準に基づく開示が義務化される予定。
    • 大企業は、サステナビリティに関するリスクと機会、特に気候関連の財務影響を明確に開示する必要がある。
    • TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨事項と整合性を持つ基準が採用される。
  • 対象:
    • 上場企業や一定規模以上の非上場企業。
  • 目的:
    • 投資家やステークホルダーに対する透明性の向上。
    • サステナビリティ投資の促進。

3. 化石燃料への賦課金(2028年度~)

  • 内容:
    • 化石燃料(石炭、石油、ガス)の使用に伴うCO2排出量に応じた新たな賦課金を導入。
    • 当初は低い税率で開始し、段階的に引き上げる方式。
  • 対象:
    • 化石燃料の輸入事業者や供給事業者が直接対象ですが、エネルギー価格の上昇を通じて広く企業全体に影響。
  • 目的:
    • 化石燃料使用の削減を促進し、再生可能エネルギーへの移行を加速。

4. その他のGX推進関連施策

  • 有償オークションの導入(2033年度~):
    • 発電事業者に対して、排出量に応じた有償排出枠を購入させる仕組み。
  • GX経済移行債(2023年以降開始済み):
    • 大企業に対する脱炭素投資を促進するための資金調達支援。

結論

2026年から2027年にかけて、日本の大企業には特に排出量取引制度サステナビリティ関連情報開示の義務化が課されることが予定されています。これらの制度に対応するため、企業は早期に脱炭素化への取り組みを強化し、情報開示体制を整備することが求められます。

ボランタリークレジット活用例

日本の企業がボランタリークレジットを活用する例は増加しています。ボランタリークレジットとは、企業やNGOなどの民間主体が自主的に取り組むカーボン・クレジットのシステムで、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を削減、または吸収・回収するプロジェクトを通じて生成されるクレジットです。企業はこれを購入することで、自らの排出量削減に貢献できます。 
スペースシップアース

具体的な事例として、トヨタ自動車日本電気(NEC)が、社会的責任(CSR)活動の一環としてJクレジットを活用しています。Jクレジットは、日本国内での温室効果ガス削減や吸収を促進し、その成果を証明する仕組みとして開始されました。これらの企業は、Jクレジットを通じて自社の温室効果ガス排出量を削減し、企業価値の向上や投資家からの評価を高めています。 
ケン・エンジョイビジネス

また、ユニリーバネスレなどの消費財企業が、ゴールドスタンダード認証のボランタリークレジットを活用しています。これにより、サプライチェーン全体での持続可能性を確保し、消費者からの信頼を高めています。 
ケン・エンジョイビジネス

さらに、マイクロソフトグーグルなどのテクノロジー企業が、Verra(VCS)認証のボランタリークレジットを購入しています。これにより、企業は持続可能な事業展開を強化し、そのCSR活動に新たな価値をもたらしています。 
ケン・エンジョイビジネス

これらの取り組みは、企業の社会的責任を果たすだけでなく、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップとなっています。

JCMとJクレジットは独立した枠組み

JCM(Joint Crediting Mechanism)とJクレジットの関係

JCM(二国間クレジット制度)は、日本政府が他国と連携してCO2削減プロジェクトを実施し、その削減効果を両国で分け合う仕組みです。一方、Jクレジットは国内のCO2排出削減や吸収活動を国が認証する制度です。

JCMでは、基本的にJクレジットは創成されません。両者は目的や運用範囲が異なるため、それぞれ独立した枠組みとして運用されています。


JCMの仕組み

  1. 対象地域:
    • 日本と提携した発展途上国などを対象に、技術移転や資金協力を行い、CO2削減プロジェクトを実施。
    • 例: 再生可能エネルギーの導入、高効率設備の設置。
  2. クレジットの創出:
    • 削減されたCO2排出量は、JCMクレジットとして認証され、日本と相手国が分配します。
    • 日本はこのクレジットを、自国の国際的な削減目標達成(NDC: 国が決定する貢献)に活用。
  3. 国際的な意義:
    • 二国間協力に基づき、相手国の脱炭素化を支援。
    • パリ協定のArticle 6(国際炭素市場メカニズム)に基づく仕組み。

Jクレジットとの主な違い

項目JCMクレジットJクレジット
対象地域日本国外(提携国)日本国内
プロジェクト内容発展途上国でのCO2削減プロジェクト国内の再生可能エネルギー、省エネ、植林など
クレジットの活用日本のNDC達成に利用国内の排出量取引やGX推進施策で活用
管理機関経済産業省(環境省・外務省と連携)経済産業省と環境省が共同管理

JCMでJクレジットが創成されない理由

  1. 運用範囲が異なる:
    • JCMは海外でのプロジェクトを対象とし、削減効果を日本の国際削減目標に活用します。
    • 一方、Jクレジットは国内の削減活動を対象とし、日本国内での排出量取引や政策に活用。
  2. クレジットの目的が異なる:
    • JCMクレジットは日本の国際貢献と削減目標達成が主な目的。
    • Jクレジットは、国内の企業や自治体が主体的に削減努力を行い、それを経済的価値に変える仕組み。
  3. 管理体制の違い:
    • JCMは二国間の合意と国際的な管理が必要。
    • Jクレジットは国内法や日本政府の認証基準で運用。

JCMクレジットの将来的な可能性

  • JCMクレジットが日本国内の排出量取引市場で使用可能になるかどうかは、今後の制度設計に依存します。
  • パリ協定のArticle 6に基づく国際炭素市場の進展により、国内外のクレジット統合が進む可能性もあります。

まとめ

JCMではJクレジットは創成されませんが、両者は補完的な関係にあります。JCMは国際的な協力を通じたCO2削減に焦点を当てており、日本の国際目標達成に寄与します。一方、Jクレジットは国内に特化し、GX推進や排出量取引に活用されています。それぞれの特性を活かして、脱炭素化の取り組みを進めています。

GX-ETSとは?

GX-ETS(グリーントランスフォーメーション・排出量取引制度)とは?

GX-ETSは、日本政府が脱炭素化を推進するために導入した排出量取引制度(ETS: Emissions Trading System)の一環で、2023年度から試験運用が開始されました。これは、企業がCO2などの温室効果ガス排出量の削減を促進し、脱炭素社会を目指す仕組みです。


GX-ETSの概要

1. 主な目的

  • 温室効果ガス排出量の削減を加速させる。
  • 企業が削減努力を行うインセンティブを提供。
  • 排出量削減を通じて企業価値を高め、持続可能な経済成長を促進。

2. 基本的な仕組み

  • 排出量のキャップ: 参加企業ごとに排出量の上限(キャップ)を設定。
  • 排出量取引:
    • 排出量削減目標を超えた場合、余剰排出枠を他の企業に売却可能。
    • 削減目標を達成できない企業は、他社から排出枠を購入可能。
  • 取引の対象: 試行段階では、Scope1排出量(自社が直接排出する温室効果ガス)のみが対象。

3. 試行段階

  • 2023年~2025年は試験運用(第1フェーズ)。
  • 2026年以降、本格導入を予定。

GX-ETSの特徴

1. 自主的な排出削減目標

  • 企業が自主的に削減目標を設定し、その達成状況を公表。
  • 削減目標の設定と進捗管理により、透明性を確保。

2. 参加企業

  • 2024年度時点で747社が参加
  • 日本国内の温室効果ガス排出量の50%以上をカバー。
    • 例: 鉄鋼業(業界排出量の98%)、パルプ・紙業(95%)など。

3. GXダッシュボード

  • 削減目標や進捗状況を公表するプラットフォーム。
  • 透明性の向上と排出削減活動の見える化を実現。

東京証券取引所のカーボン・クレジット市場との連携

  • 2023年10月、東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開設。
  • GX-ETSでの排出枠取引や、国認証の「J-クレジット」取引が可能。
  • 市場価格に基づく透明性のある取引を目指し、脱炭素化を促進。

GX-ETSの利点

  1. 経済的メリット: 排出量削減が進む企業は余剰排出枠の販売で収益を得られる。
  2. 競争力向上: 環境対応が企業価値向上やブランド強化につながる。
  3. 透明性の向上: 削減目標の公表により、企業の努力を評価可能。

今後の課題と展望

  • 課題:
    • 排出枠の公平な割当方法の設計。
    • 取引市場での価格変動リスクへの対応。
    • 企業間での負担格差をどう軽減するか。
  • 展望:
    • 2026年以降の本格導入で、より多くの企業やセクターが参加。
    • 国際市場との連携を視野に入れた日本独自のETSの発展。

まとめ

GX-ETSは、日本が脱炭素社会への移行を加速させるための重要な取り組みです。企業は排出削減を進めることで経済的なメリットを得ると同時に、持続可能な社会の実現に貢献する機会を持っています。

炭素税と化石燃料への賦課金の違いは?

炭素税と化石燃料への賦課金は、どちらも化石燃料の使用やCO2排出に対する課税制度ですが、目的や仕組み、運用の観点でいくつかの違いがあります。


1. 基本的な定義と仕組み

項目炭素税化石燃料への賦課金
定義CO2排出量に直接課税する仕組み。化石燃料の使用や供給に応じて課税する仕組み。
課税基準CO2の排出量(例: 1トンあたりいくら)。化石燃料の種類や使用量(例: 石炭、石油、ガス)。
課税対象直接的なCO2排出(燃料燃焼など)。化石燃料そのもの(使用前段階を含む)。

2. 適用対象

項目炭素税化石燃料への賦課金
課税対象者CO2を排出する企業や個人。化石燃料を輸入・供給する事業者など。
カバー範囲CO2排出量が課税の焦点。化石燃料全般が課税対象。

3. 運用目的

項目炭素税化石燃料への賦課金
主目的CO2排出量そのものを削減する。化石燃料の使用抑制や価格変動の調整。
特徴排出削減を直接的に促進するため、CO2排出量に応じて課税。燃料の供給段階で課税し、間接的に排出削減を促進。

4. 運用の例

項目炭素税化石燃料への賦課金
日本での例地球温暖化対策税:化石燃料のCO2排出量に基づき課税。GX推進法での化石燃料賦課金(2028年~):段階的な税率設定を計画。
国際的な例スウェーデンの炭素税(1トンあたり約100ドル)。他国でのエネルギー税や燃料税の一形態として運用。

まとめ

  • 炭素税: CO2排出に直接課税し、排出削減をダイレクトに促進。
  • 化石燃料への賦課金: 燃料供給段階で課税し、間接的にCO2削減や化石燃料使用抑制を図る。

どちらも環境政策の重要な柱ですが、課税の焦点や対象が異なるため、目的や効果に応じて使い分けられます。

GX推進法とカーボンプライシング

「GX推進法」における主要なカーボンプライシング計画の解説

2023年に策定された「GX推進法」(グリーントランスフォーメーション推進法)は、日本の脱炭素化を加速させるための基本方針で、排出量取引や化石燃料への課税などを含むカーボンプライシングの具体的な施策が盛り込まれています。その主要な内容を以下に解説します。


1. 排出量取引制度の本格導入(2026年~)

  • 概要: 「排出量取引制度(ETS)」は、企業が排出する温室効果ガス(GHG)に対し上限(キャップ)を設け、削減努力で余った排出枠を他の企業に売買できる仕組み。
  • 目的:
    • 排出削減を促進し、企業間で効率的な削減を実現。
    • 削減目標以上に達成した企業には経済的メリットを提供。
  • 試行段階: 2023年から「GX-ETS」として試験運用中であり、2026年以降に本格的な制度化が予定。

2. 発電事業者向けの有償オークション(2033年~)

  • 概要: 発電事業者に対し、有償で排出枠をオークション形式で購入することを義務付ける制度。
  • 仕組み:
    • 排出量に応じた排出枠が発電事業者に割り当てられるが、その一部または全てをオークションで調達する必要がある。
    • オークションによる炭素価格の形成が進むことで、発電部門の脱炭素化が促される。
  • 目的:
    • 発電事業者に経済的負担を課すことで、再生可能エネルギーへの移行を促進。
    • 炭素排出コストを市場で明確化し、排出量削減のインセンティブを強化。

3. 化石燃料への賦課金(2028年~)

  • 概要: 化石燃料の使用に伴うCO2排出量に応じて課税される新たな賦課金制度。
  • 特徴:
    • 当初は低い税率で導入し、徐々に引き上げる方式。
    • 賦課対象は化石燃料の輸入事業者や供給事業者など。
  • 目的:
    • エネルギー価格を通じて、消費者や事業者に脱炭素化を促進。
    • 賦課金の収益は、省エネや再生可能エネルギーへの転換を支援する施策に活用。

全体の目的

「GX推進法」に基づくこれらの施策は、以下を目指しています:

  1. 経済成長と脱炭素化の両立: 成長志向型のカーボンプライシングを通じて、企業が環境投資を行うインセンティブを提供。
  2. 炭素価格の適正化: 炭素排出にかかるコストを明確化し、企業や消費者の行動変革を促す。
  3. 国際競争力の確保: EUの「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」などに対応するため、炭素価格を国際基準に近づける。

これらの施策は段階的に実施されるため、企業は将来の規制に備え、脱炭素化やエネルギー効率化に向けた取り組みを加速する必要があります。

日本のカーボンプライシング制度の概要

日本のカーボンプライシング制度の概要

日本では、CO2排出量に価格を付ける「カーボンプライシング」を活用し、脱炭素化を進めています。これにより、企業の行動を変え、商品やサービスの価値向上や消費者意識の変革を目指しています。主な仕組みには以下があります:


1. 炭素税

  • 2012年に「地球温暖化対策税」として導入され、化石燃料の使用量に応じて課税されます。
  • 現在の税率は1トンのCO2排出につき289円で、省エネや再生可能エネルギーの普及に活用。

2. 排出量取引制度(ETS)

  • 2023年に試験導入された「GX-ETS」は、企業が自主的に排出削減目標を設定し、削減量の取引が可能な枠組み。
  • 東京都や埼玉県では2010年以降、地域単位のキャップ&トレード方式の取引が行われています。

3. GX推進法と成長志向型カーボンプライシング

  • 2023年に策定された「GX推進法」では、排出量取引制度の本格導入(2026年~)、発電事業者向けの有償オークション(2033年~)、および化石燃料への賦課金(2028年~)が計画されています。

4. カーボン・クレジット市場

  • 2023年に東京証券取引所で開設され、削減量やクレジットが取引される市場。
  • 企業がクレジットを売買し、炭素価格を明確化。

日本の課題と将来展望

  • 現在の炭素税(約2.16 USD/tCO2e)は国際基準に比べ低く、排出削減のインセンティブが十分でない。
  • EUの「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」などの貿易制度に対応するため、制度の強化が求められています。
  • 今後、無償排出枠や対象セクターの拡大を含む制度設計が課題となります。

これらの取り組みを通じて、企業の脱炭素化を促し、GX(グリーントランスフォーメーション)の推進が期待されています。